神楽坂TAPiR (タピ)インタビュー~あの芸術家岡野シェフの素顔が?

709
TAPiR店主 岡野さん
僕は365日3食カレーを食べ続けるという生活を何年もしているのですが、しばしば「飽きないの?」と聞かれる事があります。飽きないからこそ続いているのですが何故飽きないかというと、カレーには無限の可能性があり、それを探究するような独創的な料理を作るシェフが時折存在するからこそ、飽きることなく日々様々なカレーを楽しめているのです。
一部のカレーには美味しいだけでなく楽しさがあります。そんな美味しくて楽しいを極めたシェフの一人だと僕が常々思っているのが牛込神楽坂駅近くにあるTAPiR(タピ)の岡野さん
僕自身足繁く通うお店なのですが、実は岡野さんは間借り営業の経験もあるのです。
そこで今回は岡野さんに様々なお話をうかがってきました。先に説明しておくと、岡野さんは極度の人見知り。そんなこともあってか一部で怖いとか愛想がないという話も聞くのですが、仲良くなれば全くそんなことはなく、楽しく素敵な方なのです。
そしてタピには僕が大好きな他のカレー店のシェフも食べにくる事が多く、お店で「あれ! お疲れ様です!」と声をかけると皆さん「勉強しにきました」と異口同音に発するほど、カレー界にも影響を与えている存在でもあります。そんな岡野さんの素顔に迫るインタビュー、どうぞお楽しみください! カレーおじさん\(^o^)/(以下「カ」と表記):今回はシェアレストランの武重社長からも是非タピを取り上げて欲しいと頼まれたこともあっての取材となりました。
TAPiR岡野さん(以下「タ」と表記):そうなんですね。嬉しいです。
カ:まず岡野さんは飲食業のみならず芸術家としても活動されているわけですが、その二足の草鞋を履くようになった経緯を教えてください。
タ:美術活動をしていく中で学生時代はフレンチのお店でバイトしてたんです。美術は収入の波もあるので、美術を続けていく為にも飲食の仕事をと思ってたんですね。自分の店舗としてはバングラデシュ人と一緒に飲食店を東中野でスタートさせたのが最初です。
カ:岡野さんはバングラデシュに住んでいたこともあると以前聞きましたが、その際に出会った方ですか?
タ:いいえ。日本でナンパされたんですよ(笑)
カ:え!? 飲食店か何かでですか?
タ:いや、飲食業をやっていた人ではなく音楽家だったんですが、面白いなと思って結婚して、もう別れてるんですけど、そのバングラデシュ人の元旦那も飲食業に興味を持っていたので一緒に始めました。その際に元旦那は料理は一切できない人だったんですが、船のレストランのシェフを連れてきたんです。その人がバングラデシュ料理はもちろん世界中の料理を作れる方で、そんな人と一緒にやってきた経験が今にも活きていると思います。
カ:そうでしたか。色々納得です。僕が岡野さんと出会ったのは大久保のお店でしたが、大久保に至るまではどのような流れだったのですか?
タ:引越しが好きなのと、言えないことも色々ありまして(笑)、東中野から新井薬師、経堂、西新宿、新宿三丁目と、様々な場所でお店をやりました。その後自分一人で大久保でお店を始めたんです。
カ:大久保のお店に行った時はそのお店の雰囲気や他にない形のカレーで驚きました。飲食業しながらも美術業は続けていたと思うのですが、どのように両立させていたんですか?
タ:絵画の仕事を始めた頃は、「ここの壁に絵を描いて」と言われて自由に描いたら結構良いギャランティいただいたりして、絵も売れていくし良いなと思っていたんですが、お店やると大変でね。子供が生まれたこともあってなかなか難しかったんですが、大久保時代は多少落ち着いて、銀座の画廊で自分の絵を出展したり、その後パリの画廊でも作品を販売していました。8年くらいはそんな感じでやってたんですが、大久保のお店が古民家だったこともあってメンテナンスが大変で閉めました。その後漆塗りの方に力を入れ出したんです。
カ:なるほどそういう流れでしたか。最初に要町で間借り営業をしていましたが、それはどのような経緯でしたか?
タ:元々私のお店に食べにきてくれていたオーナーに、ウチに来る? と声を掛けていただいたので、その話にちゃっかり乗りました。大久保のお店が大変だったので、人の所をそのまま借りるのも良いなと思ったのと、イベント出店などもしていたのでその延長線上でやれるかなと思って始めました。
カ:その後が浅草橋でしたか。そちらはシェアレストランの店舗でしたよね。
タ:はい。当時カレー界隈でも間借りカレー店をやっている人が多くて興味を持って、調べたらシェアレストランが出てきたんです。そこから場所を探してもらったんですけど、銀座の画廊で場所代を交渉したのと間借りする際に条件を交渉したのが私の中では同じ感覚だったんですよ。
カ:全ての経験が活きていますね。その後結局自分のお店をということで現在の神楽坂にお店を構えるわけですが、それはまたどのような経緯でしたか?
タ:やっぱりね、間借りというのは自分に合わなかったんでしょうね(笑)
カ:あはは(笑) でも今のお店ではご自分で漆塗りをした食器で料理を提供したり、作品も販売していたりということを考えると、間借りよりも実店舗の方が確かに岡野さんらしいと思います。話題変わるんですが、毎回その料理の独創的なことに楽しく驚いているんですが、どのようにアイディアが生まれるのですか?
タ:基本的には旬のものを取り入れて、色をテーマに決めたりもします。今うちはラクト・オボ・ベジタリアン(ベジタリアンの中でも野菜、フルーツ等に加えて乳製品、卵も食べるという人の分類)料理をテーマにしているので、肉や魚を使わずにどうメニューを組み立てるか考えます。あとは仕入れ次第で変えることもあるんです。例えば今週の秋茄子と柿のカレーはね、元々秋茄子だけのつもりだったんですがいざ仕入れようとしたら茄子の販売数が急に減っちゃってて、代わりをどうするかと梨も考えたんですが、梨は割と様々なレストランで使われてますから同じようにするのはつまらないと思って柿にしました。ちょうど中秋の名月の時期なんで(取材は9月中旬)、茄子の満月と柿の満月ということで満月をテーマにしました。提供する際にね、「満月を二つご用意しました」って言って出すんですけど、初めてのお客さんだときょとんとした顔になっちゃったりして、そういうのを見ると「よし!」って思うんですよ(笑)
カ:確かに何も知らず初めてきた方は驚くでしょうね(笑) 僕は岡野さんがフレンチの経験もあって芸術家でもあるのを知っているので違和感はないですが、そこで「よし!」って思うのが良いですね(笑)
タ:今は息子がお店を時々手伝ってくれているんですけど、昨日も息子に「満月を二つご用意しました」って言って出しなさいって伝えてたんですが、最初は照れちゃって言わなかったのが後半肝が据わったのか言い出して、それを見て「よし!」って思いました(笑)
カ:そうやって楽しんでいるんですね(笑) 確かに息子さんがお手伝いしている日は岡野さんもいつも以上に楽しそうですもんね。

これを読んで岡野さんのイメージが変わった方もいるかもしれません。基本的にはワンオペなのと、料理の盛り付けなどにもこだわりがあるので時間がかかり、お客さんが増えてくると真剣な顔つきになるのでそれが怖いと感じる方がいるのも理解はできますが、それで行かなくなるのはもったいないとも思います。これだけ独創的で美味しい料理を味わえるお店は他になかなかありません。 今回の料理も凄かったです。茄子の旨味と柿の甘味を活かし、二つの満月に見立てたカレー。ひよこ豆パコラを頼むと冷製の豆スープの上に揚げたてのパコラが乗り、ジュワジュワと音を立てる。
デザートの月餅は米粉で作り、中には桃が入る。
気づけばパコラの満月と月餅の満月で満月が四つ。季節を味覚、視覚、聴覚で味わうことができました。 タピの料理は先述したようにバングラデシュ料理をベースにフレンチなど他の要素を加えたものが多く、カレーなのかカレーじゃないのかわからないことがあります。メニューにカレーと書いてあるのにカレーっぽくないこともあれば、カレーと書いてないのに完全にカレーなこともあります。タピの人気メニューのひとつであるパスタを出す時も、特にカレーと書いておらず実際食べてもカレーを感じない時にも、そのパスタに豆スープをかけた途端に完全なるカレーに変化するようなことも少なからずあります。
岡野さんは「これはカレーですか?」と聞かれると「カレーのスパイスを使っています」と、明確な答えは出さずこちらに委ねてくれます。料理を楽しみながら同時に芸術作品を楽しむような感覚も味わえるのがタピの素晴らしさ。
僕はすっかりタピの、岡野さんのファンなのです。

店舗情報

【住 所】 東京都新宿区神楽坂5丁目26 カグラザカ5 2F
 ※不動産店とラーメン店の間の階段をお上りください(1階に看板はございません)
【営業時間】(月金土)11〜15時 (木金)18〜21時 (日)9〜15時
【定休日】火水定休
 ※営業時間は要インスタグラム投稿確認
インスタグラム https://www.instagram.com/tapircurry/

カレーおじさん\(^O^)/

2006年から毎日カレーを食べ続けているカレーおじさん\(^O^)/
TBS「マツコの知らない世界」ほか多数のメディア出演、カレー記事の連載、カレープロデュースまで行うカレーアディクト。
http://akinolee.tokyo/?page_id=1380
「間借りカレーdiggin’」は毎月15日に掲載いたします!お楽しみに!